まず、典型例から挙げてみよう。
なんとうか、これまで押し寄せるようなデザインを目の当たりにしてきたので、沖永良部島になって、いきなり小さくて簡素なデザインになりギャップを感じる。記録も少ない。島の大きさは島人の無意識の自信と通底するのではないかと、ときに思うのだが、その証のように、沖永良部島の針突きデザインは大人しくなる。けれど、喜界島の文様のことを思えば、これが思い過ごしに過ぎないことも分かる。
大人しいとはいえ、細部のアレンジは興味深い。たとえば、奄美大島は手の甲のデザインが凝りの対象で、尺骨頭部は忘れられさせすることもあったが、沖永良部島では、手の甲は「●」「■」がほぼ共通しているのに対して、尺骨頭部でバリエーションを増やす。
まず、挙げられるのは左手のアマン文様だ。
小原の『南嶋入墨考』でも、取りあげられ、ある意味ではよく知られた文様だ。ぼくたちもこれまでアマンと見なしてきた。しかし、こういう例もある。
これはアマンというよりは、貝に見える。これは貝トーテムの段階の具象性を失っていない。だから、これまで見慣れてきたアマン文様は、アマンへのトーテム更新の際に、線を細くすることでしつらえた新しい文様なのかもしれない。
右手についても興味深いことが分かる。
こう配置すると、いわゆる「五つ星」を、頂点を上にした四角形として置くと、そこから十字に笠をかぶせた宮古島の「タカゼン」の文様が析出されてくるのが分かる。
もうひとつ沖永良部島の特徴として言えるのは、シントメリーへの志向だ。
この例の左手指の付け根の文様は、斜め十字ではない。
こんな風に楕円に近い形が斜め同士で交差していて、「ミヂクサバナ」(水草花)と呼ばれている。これは、十字から派生したというより、「貝」の変形としての「花」からもたらされていると思える。
すると、左右の配置として言えば、
左 T 右 S (つけ根)
左 S 右 T (手の甲)
左 T 右 S (尺骨頭部)
※T(トーテム)、S(霊魂)
こういう配置になって、シントメリーを志向しているのが分かる。
この三宅の例の場合、トーテムも霊魂も丸みを帯びた特徴を持っていることも付記しておく。全体的に丸みを帯びていて、今日的な感覚からいえばかわいらしい。
沖永良部島で難しいのは、手首内側の文様の由来だ。
三宅によれば、これはただ「ウデ」と呼ばれている。奄美大島と徳之島ではこの箇所のモチーフは明瞭に「蝶」だった(参照:奄美大島、徳之島)。喜界島では、左右の尺骨頭部のモチーフがそれぞれ変形されていた(参照:喜界島)。
この文様は、右手の甲の塗りつぶされた長方形と似ていることからすれば、「蝶」モチーフなのかもしれない。しかし、与論島では似た文様が「月」と呼ばれていることからすれば、「貝」モチーフの可能性もある。この点、いまのところ判断できない。