多良間島のぶなぜー神話は、母系社会以前の神話が、性交と出産の認識受容と神の発生以降に変形を受けている。ここで、この神話を「大きな波」以前に巻き戻してみると、次の形が考えられる。
・ウイネーツヅから蛇、トカゲ、次に兄妹が出てきた。
しかし、これでは他界が存在していることになり矛盾するので、「貝」が最後に出る神話を経由していることになる。
・ウイネーツヅから蛇、トカゲ、次に貝と女が出てきた。
これは、「貝」段階の形だ。
この古形に遡る場合の語り口が、いまのぼくには分からない。
・蛇、トカゲから兄妹が生まれた。
というくらいしか。
ひとまず、これで段階化してみる。
1.蛇、トカゲから兄妹が生まれた。
・死の発見後。兄弟姉妹婚
2,ウイネーツヅから蛇、トカゲ、次に貝と女が出てきた。
・他界の発生。集団リーダーとしての女性シャーマン
3.ウイネーツヅに逃げた兄妹(神)から、蛇、トカゲ、貝、苧麻、そして人間が生まれた。
・性交と出産の認識受容と神の発生以降
これに従うと、兄弟姉妹婚が死の発見後、他界の発生、性交と出産の認識受容と神の発生の段階を経ても温存されたことになる。しかし、多良間島の刺青には「蟹」があるのだから、母系社会は通過している。それということは、この伝承のなかで、「蟹」の段階では放置されて変形を受けていなかったことになる。そして、性交と出産の認識受容と神の発生の時点で、兄妹始祖の伝承は強く保存され、伝承のなかに残されることになっている。
この神話の契機でいえば、霊魂の発生が性交と出産の認識受容とにかかわっている可能性がある。また、ここでの洪水は最初の神話の契機が「洪水」であった痕跡かもしれない。だから、この神話を遡上するには「大きな波」を前提にしないほうがいいのかもしれない。
これはありうるだろうか。