「室川下層式」)は、出土遺跡も多く、種子島まで北上した「土器形式」だ(横尾昌樹「琉球列島における貝殻施土器の研究」「鹿児島考古」2017.7)。
横尾は室川下層式の施文には、カワラガイが用いられたのを確めている。カワラガイは、殻表面の横方面に「赤色の微隆起が走る」のが特徴だ。
室川下層式が出土する遺跡のうち、久里原貝塚と伊礼原遺跡では、カワラガイに孔を穿った製品が出土している。これは貝錘(かいすい)、装飾品などが考えられている。
室川下層式の出土遺跡は、「海岸に隣接する砂丘低地に立地が主体」。前期の曽畑式の遺跡に比べ、「台地上や岩陰、洞窟に立地」し、立地環境の多様化が確認できる。
海退による砂丘堆積期は寒冷期に相当するから、寒冷化による気候変更から「生活する場所が多様化したことが想像できる」。
しかし、寒冷化という背景のもと、温暖地域特有のカワラガイを用いた施文の室川下層式の人々が何を目的として海を北上したのかは、総合的な分析が必要である。
考えなければならないことはたくさんあるが、カワラガイの「赤」はひときわ意味を持って響いてくる。