仲泊式土器の口縁は、山形と平口縁がある(新里亮人「貝塚時代前4期奄美諸島の土器様相」)。
両タイプがあるにしても、本質的には上図の「山形」が重要なのではないだろうか。口縁部に「蝶」を表現したのだ。
蝶の造形は、4000年前の「蝶形骨器」に始まっているが、その段階で土器様式の変化はなかった。3500年前の変化は、蝶形骨器の意味とは異なる。他界の発生である。
他界の発生は、時間を一方向へと向ける。そこで、時間の尺度を持つ、この段階ではおそらくトーテムだった蝶を、土器で表現した。それが「山形」の意味だ。
前4期の展開が複雑なのは、この後、沖縄諸島中心の「沈線文系」と奄美諸島の「籠目文系」に分かれることだ。「籠目」の名の通り、奄美系は、植物トーテムの出現を想起しやすいしかし、
しかし、点刻線文系にしても、第一文様帯のなかでは、網目の表現が見えてくる。だから、どちらにしても、貝・蝶・苧麻のみっつを表現したことでは同じではないだろうか。
新里は書いている。
貝塚時代前4期の平底土器は、口縁を肥厚させることによって口縁帯を強調し、施文を第一文様帯に特化させたもものから、口縁帯表現の簡略化とともに施文範囲を胴部にも拡張させていく経緯を辿り、第一文様帯への強いこだわりが喪失していく過程を示すと解釈される。
これを引き取ると口縁部の強調は、他界との境界部の意識化であり、胴部への文様拡張は、この世とあの世の時間差の意識化ではないだろうか。
伊藤慎二『琉球縄文文化の基礎的研究 (未完成考古学叢書 (2))』