「日本の神話の記述は、表面的にはすでにトーテム原理が失われた形しかないが、例外的な記述がないわけではない」。
たとえば、海神の女トヨタマヒメが子どもを生むとき「本つ国の形を以ちで生む」から見ないで欲しいというのに、のぞいて見てしまうと八尋鰐の姿に化身して出産しているのは、八尋鰐がトヨタマヒメの出自のトーテムを暗示している(p.80)。
また、イザナギが、姿を見ないで欲しいと言われたのに覗いてみると、イザナミの身体が腐敗して、ごろごろ雷を鳴らしている。
これはトーテム原理が崩壊して、霊魂は身体をはなれ、身体は人間の形を失いつつある描写にあたっている。(p.80 『アフリカ的段階について―史観の拡張』)
ここでトーテム原理が崩壊しているというのは、イザナミが死後、自身のトーテムの姿を復元できなくなっていることを指しているだろうか。
人間は死ぬと誰でも「命(ミコト)」という神称をつけられる。これは、日本神話の基本の形だといってよい。死者でないばあいも、じぶんから数えて四代以上まえ、父(母)、祖父(祖母)、曾祖父、高祖父・・・・・の高祖父以上は、手がかり神だとされるという伝承もある。こんなふうに人間は四代以上になると神に移行し、先祖の尊崇、トーテムの尊重にゆきつく。トーテムが失われた世界では、自然の現象を左右できるほどの霊魂の普遍化、強大化、超能力化にゆきつく(p.80)。
自然の擬人化。自然物に精霊が宿る。
トーテムの設定。遡れば人間が神になる。
トーテム原理の喪失。「霊魂の普遍化、強大化、超能力化」
という順番として捉えてみる。トーテム原理が失われるのは、人間が他の自然物と異類である認識の深化によると考えられる。