「深夜の饗宴」(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。物語のようなタイトル。
琉球弧では、洗骨時になぜ傘をさすのか。傘の使用は、「深夜の行事の合理化した姿」(p.72)。
「洗骨は他人に見せるものではない」(与論島)。
闇を支配するものは、悪霊である(p.73)。
近年、洗骨のときに傘を使ったり幕を引いたりする以前には、闇の中で、つまり祭りの時期をずらせ、太陽の光をさけ、人目をはばかり、人の足音の杜絶えた時刻を選んで沈黙の秘儀が演じられたものと思われる(p.74)。
古代日本人にとって闇の恐怖は絶大であった。
「夜ピョーピョーしりぼう、ムヌ呼び出ゆん」(野口才蔵)。(夜、口笛を吹くとムンを呼び出す」。
死者を出した隣家の女たちは夜間外出を極端にこわがった(沖永良部島)。
「闇に対して抱く素朴な感情」。
私は破滅と腐敗と、その暗さから死者を更生させようとする努力、死者がまさに解放されようとするその複雑で微妙な手続きの一端が、この深夜の洗骨行事の中にこめられているのではないかと思う(p.74)。
名称のうえでは死者に対する各種の思いやりのある表現がみられるのに、人の寝静まった時刻に他者を混えずに行われるこの行事の背景には、強い死穢観が支配しているからだと思われる(p.74)。
洗骨は、時期も時間も疎外された時間のなかで行われていた。