幸運なことに、国立民族博物館の「イメージの力」展を再訪することができた。前回は興奮のあまり、浮ついていてじっくり眺めていなかったのが後で悔やまれた。というわけで、関心はやはり南太平洋に集中してしまうのだけれど、気になるものを凝視してきた。主催者側の配慮があったと思う。仮面たちの位置が低くなっていて、前回より仰角が減って助かった。再訪の甲斐があったというものだ。(cf.「「イメージの力」展、見聞記」)
タプアヌ(モートロック諸島)。男女一対の仮面。八重山のアンガマと同位相に当たると思う。
アバン。今回は側面から見た。二つの顔を持っている仮面だ。
「祖先像」(バヌアツ、アンブリム島)。
精霊像ダジャオ(カプリマン族、パプアニューギニア)。見ればみるほどにメトロン星人。さかさまの人間がぶらさがっている。
魔除け用屋根の頂部飾りゴモア(カナク族、ニューカレドニア)。
シャチの背びれがついた仮面(オウェキーノ族推定、カナダ)。
カナダ、クワクワカワクゥ族の早変わり仮面。また違った角度から。ほれぼれするデザイン。
仮面ホホク(人食い鳥)。クワクワカワクゥ族(カンンダ)
精霊像イプオン(アランブラック族、パプアニューギニア)。
仮面サアヴィ(イアムトル族、パプアニューギニア)
仮面カプダマ(イアムトル族、パプアニューギニア)
仮面カラワラ(イアムトル族、パプアニューギニア)。これは精霊を表し、さまざまな仮面儀礼に登場するという解説あり。
彫像ハンプトン(モンダン族、インドネシア)。
インドネシア・東カリマンタン州に住むダヤク系諸民族の人びとの手になるこの種の彫像は、ハンプトンと称される。大型の像は、祖先の霊を宿すものとして村はずれやロング・ハウスの入り口に建てられ、悪霊や病気が村や家へ侵入するのを防ぐとされる。死者が出ると、その故人の特徴を示す像が刻まれる。その像は、死者が祖先の世界へ旅立つ前の仮の住処とされ、葬儀ののちは、故人を記念するものとして保管される。
人類学者たちが言及することの多いダヤク族。今回は、物憂げな印象は受けなかった。
神像クラブ(ニューアイルランド島、パプアニューギニア)。
クラブは死者の魂の一時的な容器とされ、ニューアイルランド島南岸に特徴的なものであった。裕福な家族に死者が出ると、その家族の者がある山岳地帯の集落に出かけていき、そこに住む彫像製作者に、死者の性別に合わせて制作を依頼するか既製品を購入してくる。帰村後に、囲いを巡らした敷地内に小屋を建て、さらにその中に祠を作り、彫像を着色して一定期間、安置した。その期間が終わると遠く離れた場所に持っていって粉砕したという(林勲男)。
クラブの原型は、霊石、琉球弧で言えばビッチュルではないだろうか。また、粉砕するのは、もとは死者の骨に対して行っていたことだと思える。
マランガン(ニューアイルランド島)は葬送儀礼を指している。彫像はさまざまなタイプがあり、「亡くなった人物そのものではなく、その者に命を吹き込む力を表現しているといわれている」。デザインは受け継がれるもので、自由に好きなデザインにはできない。
マランガンも男根が強調されている。そして、アスマット族の「祖先像」と同様、さかさまの鳥を持っている。
祖先像(アスマット族、インドネシア)
精霊ミミの彫像(アボリジニ、オーストラリア)。かわいいね。
サンニ・ヤクマの仮面(シンハラ族、スリランカ)。これは「嘔吐用」で、その下は、「リューマチ用」。
バヌアツ、マレクラ島の加入儀礼用精霊像。今回は、側面から。突き出た鼻?がいかつい。
木生シダ製精霊像「マゲ・ニ・ヒウィル」(バヌアツ、アンブリム島)。こんな顔の友達いたなあとしみじみ眺めた。
祖先像ングワルンドゥ(アベラム族、パプアニュービニア)。
割れ目太鼓。今回は端と側面のデザイン。
トコベイ人形(トビ族、パラオ)。
蹲踞(そんきょ)の姿勢をした男女一対の木彫である。名前が表すように、パラオのトビ島(日本時代はトコベイイと呼ばれた)で作られた。真珠母貝を埋め込んで目が強調されたものが多いが、本品の用途やいつごろから作られたかはっきりしないが、20世紀初頭の日本統治時代には土産物として人気があり、トビ島以外でも作られた。この丸っこい顔や体つきは、ほのかに愛嬌があり、ゆるキャラの元祖ともいえそうだ(印東道子)。
カヌー用船首飾りヌズヌズ(ソロモン諸島)。
ソロコン諸島では、かつて首狩りがおこなわれていた。他の島に遠征する際には、戦闘用のカヌーが用いられ、その船首部分にはヌズヌズと呼ばれる神像が取り付けられていた。ヌズヌズは戦闘の神であり、円筒形の帽子をかぶり、耳たぶには大きな孔をあけ、顎が極端に突き出ている。顔面には貝の螺細がほどこされている。そして人間の首を両手でしっかりと持っている。つまり、この像は敵を威嚇するためのものであった(林勲男)。
カプリマン族の精霊像付き机後部。
今回は、「ワニの彫像」は細部を眺めた。
このワニの木彫は、セピック川の支流であるカラワリ川流域のある村の男子集会所に置かれていたものである。男子集会所はハウス・タランバンとよばれ、成人式を終えた村の男たちだけがはいって、話し合いや食事をすることができる。ワニの木彫は新しい集会所の落成を記念する儀礼のために作られる。この流域に住む人びとのあいだでは、祖先とワニの関係を物語る伝説があり、この木彫には、子供たちを守護してくれる祖先の精霊が宿っていると信じられている(林勲男)。
木彫の後部、つまりワニの尾は人間で作られている。
鳥がいくつも彫られているのも気づいた。人間はワニと一体化しているが、鳥は掃除している姿を描いたもので、人間のように一体化したものではないように見える。
柱状棺(遺骨の容器)。(アボリジニ、オーストラリア)。
柱状棺はオーストラリア北部、アーネムランドの先住民の?集団の葬送儀礼の最終段階で用いられるが、集団によってドゥプンやジャンルンプなど、それぞれ独自の名で呼ばれている。死者が出ると、遺体はまずトーテムの印を付けられた上で埋葬される。日を置いて、遺体を取り出し、それを??の木の幹で作った柱上の棺に納める儀礼が行われる。遺骨を収めた柱状棺はキャンプの定められた場所に立てられ、その後は朽ちたままに任される。その儀礼は、死者の霊が死者の国に無事にたどり着けるように送り出すものだという。
この葬法は、霊魂思考と霊力思考のアマルガムのひとつだと思う。
墓標プカマニ・ポール(アボリジニ、オーストラリア)。
オーストラリア北部準州の州都ダーウィンの北方、バサースト、メルヴィル両島の先住民ティウィの人びとが、数ヶ月も続くプカマニとよばれる葬送儀礼の最終段階に、遺体を埋めた周囲に鎮魂のため数本立てる、高いもので4メートルにおよぶ墓標。尖った先端部をもつ幾何学的な形状に彫ったユーカリなどの木に、赤、黄、黒、白の伝統的な4色の顔料で描かれた格子文様、同心円などの幾何学模様は、死者の偉業を称える。悪霊を恐れて人びとが再訪しない墓所に新旧の墓標が林立する風景は、今では観光ツアーの目玉である(久保正敏)。
木綿製衣服(アイヌ)。美しい。