考察の資料として読むので、書評にはならず、著者の宇田亮一には申し訳ないのだが、『吉本隆明 “心”から読み解く思想』で、ぼくが示唆を受け取ったことはふたつだ。
言い換えれば、「原生的疎外」の時空間では外部知覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)がきわめて大きな役割を果します。これに対して「純粋疎外」の時空間では外部知覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)は直接的な役割をもっていないのです。「純粋疎外」では内部知覚(心の中の内的感覚)が大きな役割を果たすことになります。
ヒトは「純粋疎外」の領域を持つことで、人間になったとすれば、ここでいう「純粋疎外」の領域は、霊力思考の発現にほかならない。初期の人類は、この「純粋疎外」の領域が大きな意味を持った。
もうひとつの示唆は、「前古代社会の心的構造」として、「内臓表出(自己表出)から、体壁表出(指示表出)が分離する」と見なしていることだ。これは、「霊魂」の成立を意味している。