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Channel: 与論島クオリア
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『新・沖縄ノート 沖縄よ、甘えるな!』(惠隆之介)

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 「左翼」、「工作」を禁句にして文章を書き起こせば、もう少しリアリティが増すのではないかと思う。基地反対と言えば、それだけで左翼と見なすような筆致では、一個人として辺野古に行ったことがあるぼくなどもきょとんとしてしまうし、「左翼大学教授を発起人として「琉球民族独立総合研究学会」が設立された」などと書かれると、発起人は琉球ナショナリズムを唱えているという半畳も入れたくなる。

 「左翼」の「工作」が色濃く打ち出されているので、読むうちに次第に書かれていることが噂か事実かが分からなくなってくる。それは彼が本来、主張したいことにも反映されてしまう。たとえば、「現在でも観光客に扮して中国軍情報部の部員が沖縄をたびたび調査している」などの指摘が、ゴシップに見えてきてしまうのだ。惠隆之介は、噂を食い物にするある種のジャーナリストなのだろうか。そう思ってプロフィールを見ると、大学の先生もしているので、そうではないことが分かる。しかし、これでは惠が主張している沖縄の抱えるリスクを島人に共有してもらうのに大きな障害になってしまうだろう。

 惠の視点はどこにあるのだろう。そう思って読み進めると、辺野古基地の問題について、

 私に言わせれば、この問題の解決は実に単純なのである。特別措置法を制定し、辺野古沿岸海面の埋め立て権限を県知事の掌中かた総理に移転することだ。同時に、反対派勢力による妨害活動を辺野古沿岸に適用される日米安保条約地位協定をもって警察力で排除すること、または逮捕することである。

 と露骨な国家主義者の顔を覗かせている。また、天皇が、アメリカによる沖縄への長期軍事占領を希望した、いわゆる天皇メッセージについても、

 このように、沖縄をとりまく環境は天皇が心配されたように、米軍の存在がなければかなり流動的なものとなっていたことであろう。

 と、ぼくには驚きの評価をしている。また終章のタイトルなど、「沖縄をどう統治するか」という為政者視点丸出しである。

 しかし、書名は、「沖縄よ!甘えるな」とあるから、この本は支配層に対してではなく、直接的には沖縄の島人に向けて書いているのだろう。だが、惠には島人が見えなくなっているのではないだろうか。

 たとえば、「キャンプ・シュワブと住民の交流は家族のように親密である」と書かれると、積極的に交流することで米兵が問題を起こさないようにしている島人の努力を消してしまうことになる。

 恵の島人評でもっとも唖然としたのは、

 沖縄県民の特性は、理念闘争に終始して物事の本質を見失う欠点がある。なにより、演繹的思考に乏しい。これは亜熱帯の気候に主因がある。沖縄には本格的な冬がない。冬場の平均気温でさえ、例年、十九・八度で、真冬でも最高気温が二十五度を超えることがよくある。

 これはまるで、未開社会を訪れた無知な旅人の書いたルポルタージュだ。この本の帯には、

私が沖縄出身者だから敢えて言う!沖縄県民は、今こそ被害者意識・甘えから転換せよ!

 と訴えているが、これでは島人は聞く耳を持たなくなってしまうのではないだろうか。ただ、先の記述の節題には、「沖縄県民の特性を理解せよ」とあるから、すでにここでは、統治論へと彼の視座は移っているようだ。

 残念な気持ちで読み進めると、最後にもっとも驚くことがあった。

 わが国政府は沖縄の動向を慎重に分析するとともに、将来、予測される有事に備えて対処プランを策定しておくべきである。
 中国の戦略は日米分断であり、沖縄問題がそのテコになるのだ。沖縄は島嶼県であり、有事の際には本土からの救援は航空機、または船舶に頼るしかないが、港湾、空港が中国に制圧されたら沖縄救援は困難となろう。

 この手前に、有事がどういう道筋で発生するのか、そういうシミュレーションを知りたいと思うところ、続けて、

 最も想定されるシナリオは、多数の中国人(特殊部隊を含む)が観光、見学を理由に沖縄県庁や県議会を訪問中、突然、蜂起して知事室や県議会を制圧し、知事以下、関係者を監禁または脅迫して「独立宣言」を行なわせることである。沖縄が独立宣言すれば日米安保条約は適用されず、米国は新たに沖縄共和国と基地協定を締結する必要が生じるのである。

 のけぞってしまった。これは漫画である。いや、漫画家もこのシナリオでは描かないのではないだろうか。ぼくは惠を貶めたいわけではないが、驚かないわけにいかない。これはリアリティがあるのだろうか。そうだとしたら、なるほどと思える説明を聞きたいと思う。
 

『新・沖縄ノート 沖縄よ、甘えるな!』



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