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Channel: 与論島クオリア
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『南太平洋のサンゴ島を掘る』(印東道子)

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 印東道子の『南太平洋のサンゴ島を掘る』は、考古学の成果だけではなく、フィールドワークの手順や、それに伴う苦労や喜びもともに記されていて楽しかった。こういう記述があれば、考古学者を目指す人が増えるのだろうと思う。

 印東が発掘調査を行ったのは、ミクロネシアのファイス島。

 ファイス島。竹富島の約半分の広さ。ファイスは、約七つの氏族からなる母系制社会。19世紀当時は300人ほど、現在は200人ほどの人口。1800年前から居住。無人島になることなく継続的に居住されてきた。ちなみに、千年ほど前からと言われてきた歴史が、実は1800年も前からと分かったのが、印東による調査成果だ。

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 7氏族ということは、1氏族あたり、20人弱。

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 ファイス島は、サンゴ島。サンゴ島は、火山島が水没して、地表が造礁サンゴでおおわれた後に再び海面上に露出した島。地表がサンゴ石灰岩でおおわれている。

 ファイス島はヒラメのような形をしており、白い砂浜は南島岸と北西岸、つまり、ヒラメのおなかと背中にあたる部分に少しあるだけで、頭としっぽに当たる部分は海から高く隆起している。ほぼ垂直に切り立った断崖にむかって波が打ち寄せて白く砕けているのが見える。砂浜の前面には、リーフで囲まれた狭いラグーンが見えるが、リーフの外側は急激に落ち込んでいる。海の色が徐々に濃くなるのではなく、いきなり深い藍色に移行しているので、よけいに孤島という感じがする。

 どことなく与論にも似ている。小さな与論のさらに小型版だ。

 鮫。

 ミクロネシアの他の島の人たちは一般にサメを食べない。これは、祖先がサメだったというようなトーテム信仰があるわけではなく、海に流した死者をサメが食べるからだという。

 だから、他の島の人たちは、サメを食べるファイスの人たちを、少々見下したところがある。

 ここはこう理解できる。「海に流した死者をサメが食べる」ところから、サメ・トーテムは生まれる。死者がサメになるからだ。その信仰が切れると、それ自体が食べない理由に置き換わる。

 豚。

 ブタを食べられるのは、年に1~2回。何らかの儀礼に伴う饗宴の時に限られる。

メラネシアのように男たちが情熱をかけてブタを育て、自分の威信を高めるために、ブタを大量に殺して村人に振る舞うような社会的な重要性は見当たらない。

 墓。

 現代の墓はそれぞれ家の裏に作る。ファイスの人たちは、先祖の骨に対して恐れを持っていない。発掘した埋葬人骨は頭を西に向け、膝を曲げた屈葬。

 もともと農耕技術を持って島に居住しているので、地下の他界を持った霊魂思考の強さが窺える。しかし、骨への恐怖がないところは、穢れ意識が強くないのかもしれない。小さい割に恵まれた島環境が背景にあると考えられる。

 面積が小さく、海抜も低い島では、ブタを飼育できる確率は非常に低いとされてきたが、ファイスはそうではなく、島が小さいから、あるいは島が低いからブタを飼育するのは不可能とは一概には言えないことが分かった。

 オセアニア考古学では、一般に、火山島居住の方がサンゴ島居住に比べて好まれ、火山島の人口過多によって仕方なくサンゴ島にも居住した、というイメージで捉えられてきた。

 しかし、果たしてそうだろうか、と印東は書いている。

サンゴ島に居住することを選んだ背景には、サンゴ島居住のもつ魅力が大きかったと考えざるを得ない。不意の敵の攻撃を受ける心配が少ない海に囲まれた島環境は安心感を与えてくれる。一方で、サンゴ島居住は、陸上資源に乏しい、地味が貧しい、自然災害に弱い、など多くの点で火山島居住よりも劣ると考えられがちであるが、海洋資源の豊かさや湿度の低い快適さなど、火山島に匹敵する、あるいは勝る点もある。

 これは、なぜ与論に人は住むようになったのか、についてもヒントになる。


 その他、メモ。琉球弧との共通点も多い。

・ヤップ島は、東にひろがる島々との間にサウェイと呼ばれる交易関係を結んできた。

・リーフの切れ目は、パス。

・サツマイモ。1700年代にパプア・ニューギニアにサツマイモが導入され、人口が爆発的に増えた。植え付けると、三か月後には収穫できる。

・アカロシア(クワズイモ)を食べる。えぐみを取る技術。

・流木漁。流木の下には小魚やそれを目指して大きな魚が群れをなしていることが多い。

・ファイスは、ポリネシアや東ミクロネシアで発達した階層的な社会構造はなく、チーフが統率するほぼ平等な社会。選挙は行われず、チーフの母方の家系がその地位を継ぐ。

・マチと呼ばれる織物。芭蕉布と同種で、バナナの幹やハイビスカスの樹皮から採った繊維で織る。

 
『南太平洋のサンゴ島を掘る: 女性考古学者の謎解き』



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