中本正智による、ユナとイノーの考察を見てみる。
1985年が初出の『日本語の系譜-新版』から。奈良時代、細かい砂を表わす言葉はマサゴ。一方、砂を表わす言葉にイサゴもある。平安時代に現われる砂であるマサゴは、マサゴとイサゴのコンタミネーション(混交)によってできたと考えられる。「安易な音韻法則は、かえって比較を後退させることもありうることを肝に銘じておきたい」。
砂を表わすのにイナゴもあるが、これはマナゴとイサゴの混淆によるもの。
琉球列島の砂を表わす語はイノー。
シナ 奄美大島から沖縄までの全域
イサゴ 徳之島
ンナグ 宮古島
イノー 八重山
砂を表わしていたイノーは、沖縄島になると、環礁の内海を表わす語になる。「環礁の内側は、白い砂を底に沈めた浅い環礁湖を形づくっているからである。砂を表していたイノーが、その環礁湖をさすように意味変化をきたしたのである」。
「イノーは八重山にあって古い語系であり、シナは奄美、沖縄にあって新しい語系である」。
ユナは、「イナゴの末尾音を落としたイナの変化形。「語頭のイはユと交替することは、夢をイメとも、ユメともいうことから知られる」。
ユナ 与那
ユナバル 与那原
ユナハ 与那覇
ユナグスク 与那城
ドゥナン 与那国
「琉球列島は珊瑚礁でできた島が多く、海岸には白い砂が打寄せられ、これが小山となり、ついに陸地となっていく。このように打寄せられる砂をユナといったのである」。
この中本の考察に従えば、イノーもユナも平安時代の言葉だということになる。そしてイノーとユナの違いは、砂がイノーでユナが打寄せる砂だということになる。この認識の背景には、琉球語を本土語からの分岐として見る視点なのだろう。
ぼくたちは、むしろイノーをユナから派生した言葉と考えた。中本の考察を辿っても、修正しなくてよい気がする。ユナ=イノーは、砂から派生し、どちらも珊瑚礁も表わす両義性を持ったとみなせばいい。
そうであれば、与論(ユンヌ)の語源をぼくは「砂州」に求めてきたけれど、「サンゴ礁」を含意すると捉えてもいいわけだ。