山崎はワタリガラスの物語を詳細に検討しているが、ここではトーテムポールに着目する(「カナダ先住民ハイダ族の神話世界--トーテムの契約--研究ノート」『立教大学ランゲージセンター紀要』)。
テイナス・ハイダガーイ(サケの人々)。
クランの象徴として使われる動物は主に、ワタリガラス、ワシ、シャチ、クマ、ビーバーなど。地上の動物(クマなど)や鳥(ワタリガラスやワシなど)は森と空という上層世界を表し、海の動物(シャチやアザラシなど)たちや魚(サケなど)は下層世界を表している。その間に、カエルやビーバーなどと共に人間のすむ海辺という細い境界がある。
そこでは海を向いたハイダの人々のビッグハウスが、多くのトーテムポールと共に空と海ををつなげている。
家屋はそれ自身が霊的な空間として機能する。
儀式のときには、正面のポールの根元にある紋章となる動物に穿たれた楕円の入り口を通って、人は祖先の体の中へと入ることになる(マクドナルド)。
サケの神話では、人間とサケが、ちょうどアイヌの熊のように、対称的な関係に置かれているのが分かるが、なぜサケなのかはこの記述からでも分からなかった。
しかし家屋の入り口のトーテムポールは、イメージが膨らむ。トーテムポールが、空と海をつなげるのであれば、これは天地の分離という空間発生の後にできたものだと考えられる。それということは、縄文期の琉球弧世界を再現するのに、トーテムポールでは象徴できないということだ。