翻訳文のためか、『自己心理学の臨床と技法』の「技法の10原則」がかみ砕きにくかったのだが、安村直己の解説で受け取りやすくなった。
まず、「安全な雰囲気と共感的な受けとめ(1)」。これは理解できる。「共感的な知覚様式を系統的に適用すること(2)」。こちらは、共感的な受けとめをし続けることだと解しておきたい。
本文には、こうある。
患者の体験がどのようなものなのかを、分析者が共感的に把握しようと絶えず試みていると感じられることは、患者にとって嬉しい体験になりうる。
「患者の特定の感情を見きわめることで患者の体験を認識し、また、患者が求めている感情体験を見きわめることで患者の動機づけを認識する(3)」。ここで安村は、著者のリヒテンバーグが挙げている動機づけの7つの次元を紹介している。
1.生理的要請に対する心的調節
2.個人への愛着
3.集団への親和性
4.養育
5.探索と好みや能力の主張
6.身体感覚的快と性的興奮
7.引きこもりや敵意を用いた嫌悪的反応
リヒテンバーグらは、患者が志向している動機づけをめぐる体験を手がかりにして、「患者がそのときに求めている「自己対象体験」の質をキャッチし、それに治療者は応答していこうする」のだとしている。
「メッセージにはメッセージが含まれる(4)」。安村によればこれは伝統的な精神分析に対するアンチテーゼのようで、患者が語ることを「まずはそのまま額面どおりに受け止め」、本当のメッセージが隠されているとは考えないことを指している。
「語りという包みを満たすこと(5)」。患者の語りの展開をサポートする質問をすること。こうして患者の語りが構成されると、「患者の自己体験が首尾一貫した豊かな「物語」にまとまっていくこと自体が、患者の自己の凝集性を高め、自己の強化につながっていく」。河合隼雄は、「治療とはクライエント自身の「満足のゆく物語」を治療者とクライエントで作り上げていくことだとしている」。
「帰属 attribution を担うこと(6)」。治療者が患者からの「帰属」を担うこと。
「モデル場面の共同構成(7)」。「患者の中心テーマが物語として最も象徴的、集約的、隠喩的に現れている記憶や空想や夢のイメージを治療者と患者で共同して抽出し、まとまったモデル場面として構成していくこと」。河合のいう「物語作り」。
「嫌悪性の動機づけ(抵抗、消極性、防衛性)はその他のあらゆるメッセージと同様に探索されるべきコミュニケーション表現のひとつである(8)」。これも伝統的な精神分析が、「治療抵抗」とみなしたものを、あくまで「嫌悪性」という動機づけのひとつとして捉えることを指している。
「分析者が治療プロセスをさらに進めるために行う3種類の介入方法(9)」。それは、「共感的な傾聴に基づいて、患者の視点の内側から行う介入」、「分析者自身の視点から、患者が認識できるパターンや気持ちや見立てや印象を伝える介入」、「分析者と患者の間で生じる、熟練した自発的参画」。
傾聴だけではなく、「共感的聞き取り」から得た「患者に関する治療者自身の連想や印象を、積極的に患者にフィードバックしていこうとする姿勢」。
「私たちは、私たちの介入の継列とそれに対する患者の反応に添い、その効果を評価する(10)」。これは省略。