修正を加えてアンチの上貝塚の思考にさいど接近する。
小貝塚と集積には、ヤドカリの「尾肢」も漏れがない。小貝塚側の2つのピットと「敲石兼磨石集積」だ。
ヤドカリが彷彿とするように画像を重ねてみる。
小貝塚と集積では、計3対のカニ貝が集められている。ひとつは、男性性の強い集積1と女性性の強い小貝塚4~7。あとの二対は、小貝塚と集積でそれぞれ男女の対になっている(小貝塚Ⅱ層と集積Ⅱ層、小貝塚7と集積2)。
配置からみると、このカニの対は、ヤドカリの腹部に相当している。
そして一対をあの世へ送る。小貝塚では、焼けたサンゴ礫を被せているので痕跡が残されている。対応する集積1は、報告書にこう記されている。
なお、土壙状の掘り込み内からは石灰岩の自然礫や土器の出土も少量あったが、いずれも微細な無文胴部資料で時期等の判定に繋がるようなものは皆無であった。
目を見張るのは、Ⅱ層の貝だ。男性性の強い小貝塚では、1957個なのに対して、集積側では、22813個で10倍以上もある。女性性が強い。
集積は、ヤドカリへのメタモルフォーゼを示している。その次に集められた貝たちは、コモン・ヤドカリを直接示したものではなく、オウギガニを通じてヤドカリが思考されている。しかも、鋏に強い男性性を付与しているのに対して、腹部は圧倒的な女性性である。
しかも、男女は対をなして、離して置かれる(小貝塚5,6と小貝塚4,7、小貝塚Ⅱ層と集積Ⅱ層、小貝塚3と集積2)。ヤドカリは男女の結合を意味する。しかし、アンチの上貝塚人は、結合に距離を介在させた。風を仲立ちにして身ごもる等の兄妹始祖神話の性交の間接化を、これは思い出させる。男女の結合ではない。あくまで、をなり-えけりなのだ、とこの小貝塚と集積は語っているのではないだろうか。
貝の構成はオウギガニなのに表現しているのはヤドカリ。オウギガニによってヤドカリを見る。その行為を完遂させたところで、オウギガニをあの世へ送る。集積1の貝は三体が殻口を下に向け、三体は横に向けられている。オウギガニへのメタモルフォーゼでは、殻口を上に向けるのとは違う。これはつまり、あの世の方位を示しているのだ。
アンチの上貝塚は、カニからヤドカリへの葛藤と、母系を維持しようとする意志を明瞭に示した重要な貝塚だ。