「位牌以前」(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。
火の神は、代々にわたって継承されなければならない性質のもの(p.551)。
死によって火の神が取りかえられるということは「代をかえる」という言葉や、死者の家では火を一度消してつけ直すという風習(宮城島)に見られるように、死によって穢れたものの一時的な排除と、次に予期される新しい生の獲得への祈願が込められている(p.552)。
(死者の住居を捨てる例は-引用者)けっして、家の断絶を意味しない、家は所詮、雨露をしのぐ仮の宿にすぎない。人間が抱く不滅なものに対する憧憬や、永世への願望をつなぎとめるには、家はあまりに小さく、かつ壊れやすい。その小さい家の中で、魂の終焉や生成、さらにはこの両者を結びつける役割を果たしているのが火の神信仰であろう(p.552)。
ピッチュル(神石)が、香炉、火の神へと移行したとも考えられる(p.555)。
死者の影を伴う霊魂、つまり先祖という意味以外の何かが、火の神信仰の原像なのである。位牌祭祀以前に何かがあったとすれば、火の神やクバの葉に象徴されるもっと普遍的、かつ土俗的な信仰について私どもは注目すべきだと思う(p.556)。
先祖以外の何かというのは、火の精霊になるのではないだろうか。ピッチュルも神石は、精霊の宿る石である。