アボリジニの世界では、精子はあくまで、子どもが子宮に入り込む入り口を提供するだけであり、生れてくる子どもの魂は、受精に先だって、父親の夢やその内的意識に姿を現わすものとされている(p.217)。
アボリジニの男性は、スピリット・チャイルドに出会った場合、即座にそれと分かるのだが、それは、イニシエーショノで授かった知識のおかけである。スピリット・チャイルドが現れたと悟った男性は、性交を終えると、妻に向かって「きのう、子どもに会ったんだ。今はもう、お前の腹の中にいるぞ。すぐに入れといたからな」。「卵の殻を破る」プロセス全体と胎児の発生・成長を活性化し、方向づけるのは、このスピリット・チャイルドであって、生死ではないのだ(p.218『アボリジニの世界―ドリームタイムと始まりの日の声』)
トロブリアンド諸島の島人とは違って、性交による妊娠という概念はある。しかし、精霊児の存在が先立っている。何事にも夢見を先立たせる思考の方法がよく現れている。
また、トロブリアンド諸島の島人は農業を行うが、性交による妊娠という概念を持たない。この性交による妊娠という概念は、狩猟採集という段階に獲得されることもあれば、農の段階まで持ちこされる場合もあるということだ。
だが、こう判断するのは保留がいる。このアボリジニの証言はヨーロッパ―人が入植し始めたころのものではないのだから。