念のために、南太平洋から、病気や死に悪霊が関与する例を拾ってみる。(cf.『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』棚瀬襄爾)。
事例1.クラマン族(ミンダナオ島)
人間は一つの霊魂を持つ。生存中は身体のなかに住み、死ぬと天に行く。刑罰に価する時は地下に行く。病気は悪霊によるか、霊魂が身体から離脱するために生じるから、悪霊を宥めるか霊魂を連れ戻す治療をする。巫女が病気治療に当る。
事例2.スバヌン族(ミンダナオ島)
人間には関節と息に一種の霊魂があるが、本来の霊魂は頭の頂の下にある。死は、悪霊が関節の霊魂を食うために起こるが、本来の霊魂は無くならず、死に際して身体を離れてどこかへ行く。供養すれば天へ行く。
事例3.アッチェ族(スマトラ島)
回教徒だが、疫病は悪霊の所為と考え、この考えに基づいて治療をする。治療するのは巫。
事例4.ガレラ族、トベロ族(ハルマヘラ)
病気や死は悪霊の影響。
事例5.ウィンデシの原住民(ニューギニア)
台上葬または埋葬。悪霊による死がある。死の翌日、島に葬る。1年以上経つと、死者の頭蓋を取る。
事例6.マリンド・アニム族(ニューギニア)
病気の原因は、自然的原因(これは少ない)、呪術、悪霊
事例7.サモア人
病気は悪霊が病人の身体のなかに入ることによって惹起される。悪霊の憑依。治療として祈祷を行う。死体は森に造った台上に晒し、腐らせてから骨を集めて埋葬。埋葬や海に流す例もある。
事例8.ポリネシア人(ハワイ諸島)
霊魂の座は眼窩の中、涙腺に占めている。霊魂は睡眠中、身体を離れ、その見聞が夢である。病気は悪霊が病人の中に入ったためであるとし、司祭を呼び、呪文で悪霊を追い出す。死後は洞窟や洞穴に葬られる。家のなかに葬られることもある。その場合、家は捨てる。
地図を見ると、台風の北上のようにニューギニアからフィリピンにかけて分布しているのが恐ろしい。