収穫を契機とした豊饒儀礼のなかの仮面。
事例1.アスマット族。
籐を螺旋状に編んでつくる円錐形の仮面は、明らかに男根を模したもので、豊穣や多産の儀式と関係する。この仮面が村に出現すると、若い男性たちが、歓声をあげて果実を投げつけて攻撃する。そうすると仮面の精力が増強するという。翌日また仮面が村を一巡するが、各家では父親が幼い子供を従えて待ち受ける。仮面は子供たちが早く成長するようにと、男の子の陰嚢や女の子の乳房に触れてまわる。子供を脅かす(p.139、福本繁樹『仮面は生きている』)
事例2.アベラム族(マプリク山地)
人間が顔につける舞踏用仮面「バパ」以外に、ヤムイモにつける小型の仮面「クンブ」」を、籐細工や木彫によってつくる。仮面をヤムイモにつけるのは収穫祭のコンクールのときで、もっとも巨大な品種で、最高位の精霊「マンブタブ」の名を持つヤムイモに仮面をつけ、羽毛や彩色で飾る。二番目の政令「ウンジュンブ」の名の品種のヤムイモには、ニワトリの白い羽毛の冠を飾る。その他の品種のものは、さらに簡単な装飾ですまされる。このようにヤムイモには大きな品種のものから順番に位階があるが、その品種名に精霊の名がつけられている。この場合ヤムイモの位階は精霊の位階に該当する。精霊の名で呼び、精霊そのものであるとされるヤムイモに仮面をつけ、そのヤムイモをたべることによって、精霊と作物と人間の依存関係が確立されると解釈できる(p.166、福本繁樹『仮面は生きている』)。
『南太平洋 民族の装い』(福本繁樹)を見ると、バイニング族(ニューブリテン島)の火踊りは、「収穫祭」の項で紹介されているが、何の収穫祭か明記されていなので、挙げないでおく。
収穫祭としての仮面の例は意外に挙げられない。これは、死者儀礼や成人儀礼のなかの仮面が、次第に豊穣儀礼のなかに取り込まれていったことを示すのかもしれない。