迷路にはまってしまいそうだが、ふんばってみる。
再生信仰は、霊力思考の優位のもとで生まれる。人間は、死んでもほどなくして人間に生まれかわる。
転生はどうか。
棚瀬襄爾によれば、「動物への転生の信仰は、地上の他界の観念を有する島々において行われるのであって、地下界信仰を持つ民族には存在しない(p.199、(『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』」と書いている。
しかし、タミ族は、埋葬-地下の部族だが、転生信仰をもつ。これは棚瀬が言うように、「組織だったもの」ではないのだとして、霊力思考の影響は小さいとしても、存在はしている。タミ族では人間は「長い霊魂」と「短い霊魂」を持つ。長い霊魂は影と同一視されて、睡眠中、身体を離れて覚醒時に戻ってくる。短い霊魂は、死後のみ身体を離れ、しばらく死体の付近をさまよってから地下界に行く。病気は魔術によるという観念もある。この、短い霊魂と魔術は、霊力思考によるものと考えられるのだ。
すると、霊魂思考に対して、トーテミズムがより関与したとき、転生信仰が生まれ、再生信仰がより関与したとき、来訪神が生れる、となるだろうか。
タミ族においては、来訪神儀礼を持つが、転生信仰も弱いながらあるのは、両方の関与があったと見なすことになる。
こういうことは言えるかもしれない。(霊力思考)>(霊魂思考)のところでは、再生信仰として現れ、(霊力思考)<(霊魂思考)のところでは、転生あるいは来訪神として現れる。琉球弧においても、母系の強まりとともに、(霊力思考)>(霊魂思考)となり、再生信仰が前面化した段階があった。
琉球弧においては、再生信仰、トーテミズム、転生、来訪神のいずれも見ることができる。転生信仰が痕跡としてしか見出せないのは、トーテミズムの弱さを示すように見えるが、しかしアマム・トーテムは強かったのだから、断定できない。
手元の資料による限りは、
来訪神-トーテム(イアムトル族、バンクス諸島)
来訪神-転生(タミ族、マリンド・アニム族は転生信仰はないが、植物への化身信仰はある)
再生-トーテム(トロブリアンド諸島)
転生-トーテム(ファテ島)
再生-転生(ダヤク族)
この表が得られる。
再生信仰は、トーテミズムや転生信仰と共存しうる。トーテミズムは、再生・転生信仰と来訪神と共存しうる。ところが、再生信仰と来訪神は共存する例が見出せない。再生信仰のあるところに来訪神はなく、来訪神信仰のあるところに再生信仰はない。すると、霊魂思考のなかでの再生信仰の変態が来訪神、と言えるだろうか。
あるいは、再生信仰と来訪神を共存させたのが琉球弧の特異さと言えるのだろうか。再生に対する信仰の強度が霊魂思考のなかでも来訪神を出現させる推進力になった、と。