レヴィ・ストロースによれば、呪術の効果は呪術の信仰を前提とする。この信仰は、呪術師自身の自分の能力に対する信仰、患者が呪術師の能力に関して抱く信仰、そして集団的世論の信頼と要求。同じことは、吉本隆明も『共同幻想論』で指摘している。自己幻想と共同幻想は未分離の状態でなければならないということだ。
レヴィ・ストロースの挙げている例が、本の文脈とは別に関心をそそった。ニュー・メキシコのズニ族において、別の村落に属する二人の呪術師が対決をする場面が出てくる。
一方の呪術師は、患者から病気の原因を取り出すが、それは「病気の魂」なので目に見えるものではなく、つかまえたと称するに留まる。もう一方の呪術師もやはり病因を取り出すが、それは血にまみれた小さな塊という物質になっている。
対決の行方はともかく、ただいま追っている関心事からいえば、病因を物質として取り出すという治療は、オーストラリアの先住民に見られた霊力思考におけるものである。一方の、取り出すが物質ではなく「病気の霊」であるとするのは、霊魂思考が関与している。
ここから見ると、ズニ族は、霊力思考と霊魂思考が混融した段階にあると見なすことができる。