オーストラリアの先住民たちの主に他界をめぐる習俗から琉球弧との接点を探っていく(棚瀬襄爾『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』)。
・土で覆わない埋葬(埋めない埋葬)は、埋葬と台上葬の交錯の結果。この場合、埋葬には単純埋葬と複葬の伴う埋葬がある。
事例1.女の死体が空溝に放置され、後に親族がその頭蓋を取る(オーストラリア、フィッツロイ河)。
事例2.台上葬の後、頭蓋を取る(オーストラリア、ンカウンター湾部族)。
事例3.台上葬の後、骨と頭蓋を取り、頭蓋を並べた洞窟がある(キンバーレイ諸族)。
これらの例は、埋めない埋葬とは逆に、台上葬習俗が埋葬習俗を受容して生まれた葬法だと言える。与論島の風葬で、骨化した後、頭蓋を特に重視するのは、この態度に対応するのかもしれない。
すると、琉球弧の葬法の図解は、また更新して下図のようになる(cf.「琉球弧葬法の三角形」)。
1.単純埋葬
2.死体放置
3.埋葬(頭蓋)
4.風葬(全身の骨の処理・頭蓋)
5.埋めない埋葬
6.埋められない埋葬
風葬には、台上葬文化の全身の骨の処理を行う場合と、埋葬文化を受容した頭蓋の保存という二重性を持つ。また、ぼくがこれまで「埋められない埋葬」と呼んできたものは「埋めない埋葬」のなかに集約できるかもしれないが、珊瑚礁環境ゆえ、区別しておく。
・死汁を浴びる習俗のなかには、「強くなるために」死体の油を身体に塗る習俗がある(ワラロイ族、p.133)。
これは霊力思考のなかでは初期のものだと言える。これが直接的になると、食人へ移行するだろう。死者の肉を、親族に分配し、心臓、肝臓等は、最近親が喰らう(ディントリー、モスマン河部族、p.134)のは、「近い親類のことを真肉親類(マツシシオヱカ)といひ、遠い親類のことを脂肪親類(ブトブトーオヱカ)といふ」と書いた伊波普猷の言葉を思い出させる。
東南オーストラリアの埋葬に特徴的なのは、死者のすべての道具や持ち物を埋める、副葬することだ。棚瀬はこれについて、死穢観念は未発達だが、穢れの観念を生んでいたと書いている。これは、そういうより、家を捨てる(野営地)を離れるのと同じ理由、死者との関係幻想の再編集の現れと見なすことができると思える。
この関係幻想の遮断と再編に当たって、象徴的なのは「死者の名を呼ばぬ」という習俗だ。これは、樹上葬、台上葬の種族では、女性に課せられる「沈黙の掟」になる。これは、食人に対しても時に女性は御法度になるのと相似形をなしている。この、「死者の名を呼ばない」ことと「沈黙の掟」の間には、霊魂像の明瞭さの違いがあるのかもしれない。
他界における天地の対置の場合、階級ではなく、右利きの者は天に、左利きの者は地下にとしている部族もある(ワケルブラ族、p.145)。