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Channel: 与論島クオリア
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メラネシアの他界と葬法

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 続いて、メラネシアを見る(棚瀬襄爾『他界観念の原始形態―オセアニアを中心として』)。

 他界に入るための条件の例。

 事例1.イサベル島人は、他界、ラウラウの島の頂には池があり、冥府の王がいて、入墨の有無を確認する。

 事例2.ソロモン諸島のフロリダでは、鼻隔壁の有無を確認される。

 事例3.サンクリストヴァル島では、耳朶の穿孔を核にインされる。

 事例4.ニューヘブリデス諸島オーロラ島では、耳朶穿孔と入墨を確認される。

 これらの例は、琉球弧におけるアマムの入墨と同じ理由だ。ここには、トーテミズムの何らかの障害が見られる。印によらなければ見分けがつかないということは、トーテムが充分には信じられなくなっていることの表れではないだろうか。

 フィジーのヴァヌアレヴ島では、祖父が孫に生まれ出る。これも、祖父母から童名をもらう琉球弧の習俗と同じだ。

 ソロモン諸島では、聖なる所に出現する蛇は、それ自体、聖なるものであり、死霊の化現である。聖なる所は墓であることが多い。中には祠、木像、石、貝が置いてある。ニューヘブリデス諸島でも、石の置いてある聖所に現れる動物は神聖視される。ただし、それは死霊ではなく、精霊である。

 さて、これは琉球弧の場合、死霊と見なされる場合も、精霊とみなされる場合もどちらもありうると思う。地下他界が濃厚な場合は精霊であり、海上他界が濃厚な場合は死霊である。

 ニューブリテン島のスルカ族では、一般には埋葬が行われるが、頓死者の場合は、台上葬が行われる。これは、埋葬習俗のところへ台上葬が入ってきたが、変死者の葬法にのみ採用されたと、棚瀬は考えている。これは、琉球弧葬法を考える上でも示唆的だ。

 葬法の元型を見る限り、埋葬にしても台上葬にしても骨の処理(改葬)を伴う。だから、琉球弧においても頭蓋のみか、全身の骨の処理を行うかの違いはあれ、改葬は広く行われていた。これが単純な埋葬へと変化する契機を考えてみる。ここでは、単純な埋葬文化がやってきてそうなったという前に、内在的な変化の理由として。

 考えられる変化の契機は、御嶽の発生である。頭蓋崇拝が行われているところに台上葬文化が入り、頭蓋崇拝が行えなくなったところでは首狩りが発生していた。頭蓋崇拝を部族外に求めることで共同儀礼化と代替を行ったのである。同様に、御嶽が発生するということは、頭蓋崇拝の共同儀礼化を意味する。そこでは崇拝するものが、家族のそれではなく、いわば神であることを強いられるから、御嶽の発生は、埋葬における頭蓋崇拝を消滅させるのである。

 琉球弧の葬法の遷移について表にしてみる。

Photo_2

 まず、初期型として、死体放置、単純埋葬、埋葬と改葬、台上葬と改葬が考えられる。ぼくは埋められない埋葬も想定するから、その場合と改葬も入れる。

 次に、埋葬文化と台上葬文化の混融形態を考えれば、埋めない埋葬として改葬が行われる。

 そして御嶽の発生を考えれば、ここでもともと埋葬文化のところでは、改葬は消滅する。これによって、改葬はもともと台上葬だったところのみになる。

 これが、琉球弧において、いわゆる洗骨と非洗骨が分かれて分布する理由になっているのではないだろうか。

 宮古島において、異常死のみ洗骨をするのは、ここでの霊魂思考の強度を表わし、沖縄島では逆に異常死のみ洗骨しないのは、霊力思考の強度を表わしている。 宮古島では神女は洗骨した例がある。この場合、第一次葬が埋葬だったか、台上葬だったかの記述がないので限定できないが、埋葬だった場合は、神女だからこそ頭蓋崇拝の思考を働かせ、台上葬だった場合は、天の他界の受容後を意味する。徳之島の農耕に適した東側が非洗骨地帯であるのは、頭蓋崇拝の御嶽への転化による改葬の消滅を示すものだと思える。

 家の中に埋葬する例について、棚瀬は子供への愛着からなせることかもしれないが、「死体保存葬(すなわち台上葬)との交錯から発生したという推定も可能なのではあるまいか(P.245)」としているが、これも示唆的だ。琉球弧において、かまどの下等の屋内に埋葬する習俗は散見され、子供などの場合は、再生への祈願が感じられる。この点、棚瀬の指摘通りだと思える。

 オーストラリアの埋葬に於いては、副葬が伴った。ところがメラネシアの埋葬では財物の滅却が伴う。これは、死者の他界での生活のために供するものであるとしたら、この二者の態度の違いは、天上界がこの世の延長線で考えられているのに対して、地下他界があの世として考えられていることの違いではないか。そう考えると、天上他界の存在は、疑わしいのではないかと思えてくる。



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