琉球松さんの示唆を助けに、琉球弧の「ありがとう」分布をみると、確かに方言周圏論で説明できる部分がある気がしてくる。
琉球弧の北と西に、「誇」系が分布し、その内側に「拝」系が分布している。そして、その中間域に、「尊」、「頼」、「孵」が来るが、中間域に位置する語は、他には分布していない。
「誇」系 喜界島(ウフクンデール)、与那国島(フガラッサ)、徳之島(オボラダレン)、奄美大島(オボコリダリョン)、石垣島(フコーラサーン)
「拝」系 沖永良部島(ミフェディロ)、沖縄島(ニフェーデービル)、八重山(ミ(ニ)-ファイユー)
「尊」系 与論島(トートゥガナシ)
「頼」系 宮古島(タンディガタディ)
「孵」系 宮古島(スィディガフー)
大和言葉が琉球弧に流入して、その受容と創造のなかに、最初に生まれたのは「誇」系であり、最後に生れたのが「拝」系だった。「拝」系は琉球王府の近傍から生まれたのかもしれない。そして、琉球王府近傍からの言葉の伝搬が及んでも、それがその間に生まれた言葉を代替しなかったのが、「尊」、「頼」、「孵」の言葉たちになる。