マーシャル・サーリンズは『石器時代の経済学』のなかで、エルスドン・ベストがワイルアについて説明した文章を引いている。エルスドン・ベストは、マルセル・モースが彼の贈与論の根拠においたハウについて、マオリの賢者から聞いたその人であり、ワイルアとはマオリ族の霊魂概念に当たっている。
ワイルアというマオリ族の用語は、人類学者が霊魂となづけているもの、すなわち、人が死んでその肉体をはなれた霊、霊界におもむいたり、あるいは、この地上でかつての家のまわりをうろついたりしている霊をいみする(後略)。
棚瀬襄爾は、ワイルアとハウの概念について、「人間の死後も霊魂は絶滅しないで、身体を離れて存続する霊魂が wairua であるか、 hau であるかをフレイザーは明らかにしていない」(p.401、『他界観念の原始形態』)と書いていたが、ワイルアであることが、ベストの記述から確認できる。(cf.「霊魂協奏曲」)
ただ、マーシャル・サーリンズのこの本からは、モースが根拠としたハウの説明について、マオリ語の研究者ブルース・ビッグズに改めて依頼した翻訳が載っているだが、それがとても重要だと思える。マルセル・モースの『贈与論』では、「値段」、「品物」、「売り買い」、「返済」と訳されていた言葉が、より自然な言い回しに置き換えられている。モースの解釈が西洋的な概念に傾いていることに感じるぼくたちの違和感が、先住民の言葉のなかからは払拭されていく気がした(cf.「マルセル・モースの『贈与論』」)。