トーテムの系譜と島人の思考 9
トーテムになった動植物に違いはなく、サンゴ礁が形成された時期も同じころであるなら、北琉球弧と南琉球弧のちがいは、「霊魂の発生」の段階の違いでつかむのが最も本質的だということになる。 それはつまり、「蝶」と「苧麻」を介して行われた。北では「蝶」に死者精霊を見るだけではなく、「霊魂」を見た。南では、「苧麻」を通じて植物身体を見るだけではなく、そこに「霊魂」を見た。...
View Articleヨナとイヤの分布
熊本県の美里町には、「いや川水源」がある。「いや」は胞衣のことだ(「いや川水源と御手洗水源」)。いや川水源は、鳳林山の麓に湧出している。水温は年間を通して15℃ほどで一定している。干ばつのときも枯れたことはないそうだ。川底には カワベニマダラという紅苔が自生していることで知られる。最近はその数が減っているそうだが、昔は川底の石全体が紅く染まるほどたくさん自生していたという。...
View Article地名としての大神島
「琉球國三十六島図」に、大神島は、「烏噶彌」となり、「宇加味」と添えられている。 これで云えば、大神島の意味は、「拝み島」ということになる。あの世の島として拝むという意味に通じる。 大神島は、地名として新しいと思わせるが、遡って「拝み島」まで辿っても、地勢や地形を示す本体へは至らない。 結局これは、オーの島の系列と見なせるのではないだろうか。
View Article「ウクムーニーについて」(『やんばる学入門』)
コラムで短く与論のことが出ているので、書いておく。ウクムーニーは国頭の奥の言葉。周辺の、宜名真・辺戸・楚州などと通じない部分があるが、その一方で、沖縄島の北方に浮かぶ与論島のことばとは共通する所が多くみられる。 と奥の方からも近しさが確認された嬉しい報告だ。...
View Article「境界紀行(四)宮古島・前編 たましいの行方をさがして」(谷川ゆに)
御嶽はプロト神社とも言うべき場であり、聖域や禁忌といったイメージがつきまとう。とくに、御嶽(ウガン)が神社に合祀されて、知る人ぞ知るという場に過ぎなくなった与論生まれのぼくには、そうなってしまう。けれど、今回谷川ゆにが訪れた宮古島川満の御嶽はそういうイメージからはちょっと離れている。たとえば、祭りの日、神役の女性たちは、御嶽で料理を供えて神と共食する。...
View Article「自己拡張動機と他者を自己に内包すること」
翻訳が読みにくいのだが、ようやく「自己拡張理論」の提唱者の論考を読むことができた。 自己拡張モデルが提案しているのは、「人間の中心的な動機づけは自己拡張であり、おのおのがパートナーを自己に内包している親密な関係を通して自己拡張は求められる」ということ。 自己の重なりあい。内包した後に、「広がった自己は親密な関係の非常に利他的な特質を作り出している」。...
View Article『南島文学発生論』序
谷川健一は書いている。 日本から南下し沖縄島に渡来したアマミキヨと呼ばれる人びとも「古渡り」と「今来」の二種類があった。古渡りのアマミキヨは古代の海人文化をもたらした人びとであったが、今来のアマミキヨは鉄器をたずさえ、城郭の築造を指導し、鍛冶の技法を沖縄の島々にひとめた人たちであった。...
View Articleふたつの産島(『不知火海と琉球弧』)
天草の産島は、「海岸近くに産島八幡宮が鎮座し、天草の近郷の女性たちから安産の神様として今も尊崇を受けている」。 その八幡宮の由来譚には、神功皇后が半島に出兵した際、産気づきここで出産したことにちなむとされている。 ぼくたちはこれをもともとの島人の信仰に戻さななければならない。それをほぐすのは、産島八幡宮の祭礼だ。 いま、海を渡る祭礼として知られる青島と比較してみる。...
View Articleヨナとイヤの身体・地名分布
胞衣は、エナの他、ヨナ、イヤと呼ばれている。しかし、それらは地名としての胞衣でもある。この分布の仕方には意味があるのかもしれない。・身体ヨナ 福井県、愛知県、三重県、島根県、山口県・地名ヨナ 熊本県、福岡県、山口県、広島県、島根県、兵庫県、愛知県、岐阜県、山梨県、千葉県、石川県、長野県、新潟県、茨城県、福島県、山形県、岩手県、秋田県、青森県...
View Articleイナとしての胞衣
にわか調べだが、胞衣を「イナ」と呼ぶのは、関東から東北に広がっている。南からいけば、イヤ、ヨナ、イナという分布になる。そして、イナの場合、エナとの通音は容易になるだろう。 「ヨナとイヤの身体・地名分布」の続きでいえば、「地名ヨナのところでは、ヨナを地母神的に捉えたところでは、身体をイヤと呼び、米として捉えたところでは身体をエナあるいはイナと呼んだ」ということになるのかもしれない。...
View Article産山柄杓田の縁起譚
谷川健一は、阿蘇の産山(うぶやま)村にある柄杓田(ひしゃくだ)の縁起譚を紹介している。 柄杓田には、柄杓田大明神が祀られている。『肥後国誌』補遺にはこうある。...
View Articleイヤ地名
土井卓治が『葬送と墓の民俗』で挙げているイヤ地名を列記してみる。 まず、八束郡揖屋街(これは現在の島根県松江市東出雲町揖屋)。土地の人は、イヤ谷、イヤン谷、ヤダン等と呼ぶ。 兵庫県美嚢郡吉川村の伊屋ノ谷。現在は三木市(伊屋ノ谷の正確な場所は分からなかった)。...
View Article生命の源泉としての地名
吉本隆明は、地名を介して神話を段階化している。 1.地名=地勢名 2.地勢名=地名=人名 3.地名と人名の二重化 4.地名の物語化 ぼくたちがここに立ち止まるのは、地名としてのユナ(砂洲)が「胞衣」を意味していると考えているからだ。 ユナは、人間が生命の源泉に意識を向けた段階で、「砂洲」というだけではなく、「生命の源泉」としての意味を帯びるようになった。これは1と2のあいだに入ることになる。...
View Article柳田國男の「宝貝」と「稲籾」
『海上の道』における柳田國男の「日本人」は、人種的な構成要素ではありえても、それだけでは「民族」の区政要素とは見なしにくい。しかし、それでも、「「宝貝」や「稲」についての柳田の記述は、いちばん円熟した時期に、いちばんたいせつな民俗学の主題をめぐって、いちばん精髄をあらわしている個所だった」。だから、吉本は「この主題から立ち去るのが惜しい感じを与えるゆえんだ」としている。...
View Articleヨナ・ヨネ地名 2
崎山理が挙げていたヨネ地名について、確認する機会がめぐってきた。(参照:「ヨナ・ヨネ地名」) この地名を崎山は、『大日本地名辞書』と『古代地名語源辞典』から抽出している。...
View Articleイヤ地名 2
敗戦直後に刊行された『大和地名大辞典』には、奈良の小字が可能な限り収録されている。 これでカウントすると、イヤ地名は143にのぼる。うちイヤ「谷」系が55、イヤ「山」系が5と、圧倒的に「谷」系が多い。これが奈良の地勢の特徴なのか分からないが、イヤ形地名が南方系であることを示唆したもののようにも見える。 奈良を別に、イヤ地名を拾えるだけプロットしてみる。...
View Articleイナ地名メモ
崎山理は、「日本語の系統とオーストロネシア語起源の地名」のなかで、『古代地名語源辞典』では、「地名のイナ(伊那、伊奈)はヨナ「砂地」の転である」と見ているが、「イナ・ヨナ語源説は音韻変化的な妥当性を欠く」と指摘している。 素人のぼくには、容易に転訛しうるように見えるから不思議だ。(yuna > iuna > ina) 音韻変化とは別の側面からも言えることはある。...
View Article猫の樹上葬
猫の死骸は袋に入れてアダンの木に下げる。その周辺の習俗を挙げてみる(酒井卯作『琉球列島における死霊祭祀の構造』)。 ・山に行ったら猫の声色を出すものではない。猫は人の精をとる(国頭)。 ・猫は土の臭いをかいだら再生する(石垣島)。 ・猫の魂とりを退けた呪術は、「クスコレバナ、クスコレバナ」(与論島) ・「猫と童は人の肝見ゆん」(与論島) ・猫は年を取ったら後生通いをする(与論島)...
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